別役実のコント教室から編集
- フィクションを書いていくリズムについて
ものを書くことやお笑いをつくりだす準備として、うそをつく精神は非常に役にたつ。どちらも相手のことを考え、ポーカーフェイスを作らなければならないからである。
物事を第二次感覚(たとえば爆弾をそれだとわかっていながらそっけなく扱うような、理屈の枠組みそのものがどこかズレている感覚)で捉えることができるようになると、うその領域に入ってくる。
たとえば「爆弾コント」があったとします。テーブルの上に時限爆弾がのっかってて、それでカチカチって、いつ爆発するか分からないっていう状況ですね。これに、「あ、怖い」とか「逃げる」とかっていう反応を考えるのは、第一次感覚(空を見て青いと思うような、ナチュラルに対応する感覚)の部分なんです。カチカチいってる時限爆弾を真ん中にして、お友達が和やかにお話している。これはブルースカイという人のコントにあった例でいいますと、「もう帰るの?」っていって、「いや、もうしばらくいるけど、だけど私、この時限爆弾が爆発するまでには帰るわよ」というふうな会話がある。そんなことをいいながら、ピザを注文する。「ピザがくるまでに爆発しないかしら」とか話している。つまり、理屈のつじつまは合っているんだけど、理屈の枠組みそのものはどこかズレている、そういう感覚。
うそがうそを呼ぶ、という感覚が、フィクションを書いていく上でリズムを形作っていく。
- プロット思考
コントの脚本は400字詰め原稿用紙にして10枚程度らしい。それにもかかわらず演劇に必要な要素が凝縮しているということで、プロット思考のいい練習方法であるといえる。
プロットというのはどういうことかというと、因果律といいます。どういう原因がどういう結果になったかという、原因と結果の因果関係が組み立てられるものがプロットという。
演劇には制限があるので、ストーリーよりプロット思考が向いている。
区切られた場面(たいてい新しい登場人物が登場し、退場するまでの間)の中で、それぞれの登場人物が持ってきているそれぞれのストーリーを凝縮する。
また、戯曲は構造で表わすことができる。異物を重ねあわすことによって、笑いや非日常的な状況を作り出す。これがコントの原型である。
- 会話・せりふ
せりふで時間を立ち上げる。
二人芝居の時、片方は異常でもう片方は正常あるいは常識的であるという役割分担ができる。観客は、正常に近い方を追体験する。