独特の雰囲気

 ちょっと話を変える。
 日本は「達成感の無い、解消されないもの」に対する感受性が非常に高い。例えば「亡霊」や「わび・さび」が挙げられる。
 これらはいわゆるアーキタイプから外れている存在だ。しかし「達成感の無い、解消されないもの」が真実を語ることは出来る。
 例えば囲碁の世界観を「盤上は宇宙である」という言葉で言い表すことがある。これは一種の「無意識の中にある、秘められた真実」であるといえる。
ヒカルの碁」という作品は、亡霊が読者に真実を示す場面がある。藤原佐為は亡霊であるが、かつて神の一手を極めんとした探求者である。
 もしもこれが典型的なアーキタイプに沿った物語だったらどうなるだろう。真実を明らかにするのは探求者の亡霊ではなく、せいぜい主人公の父親の亡霊である。
「援助者が誰か」という問いが私に投げかけられたら、親族が真っ先に思い浮かぶ。しかしそのまま親族を援助者にしたら、ユニークな設定・雰囲気を作ることはできない。複雑だがスジの通っている設定をあえて残すことによって、物語が豊かになっていく。
 これは登場人物に限ったことではないだろう。仮想世界の法則や環境・住民の生活といったものにも独特の雰囲気をまとわせることが可能である。整合性に注意しつつ、ありきたりの発想を疑いをかけよう。