マンガの創り方 誰も教えなかったプロのストーリーづくり
この本は巻末に収録された山本さんと高橋留美子さんの二編の短編マンガを手本に、短編マンガのストーリーづくりの作業工程を書いたものです。
既存の短編マンガがどういう構成になっているのか読者にわかるように、まずバラバラに分解してみます。
画を取る→ネーム
ネームからコマ割りと吹き出しを取り、箇条書きにする→箱書き
箱書きを箇条書きにしたものを四つに分ける→起承転結
山本さんは映画の脚本を手本にストーリーの構成を解説しています。
箱書きという用語はここから来ているようです。
箱書きは主に場面ごとに成り立っています。
もしページ数より箱書きが多いと、1ページに2つ以上の場面を展開することになり読者を惑わすことになります。
箱書きがストーリー管理の目安となるわけです。
単に起承転結でストーリーを解説するよりもわかりやすいといえましょう。
山本さんの解説によって、高橋留美子さんの作品が一つの無駄のコマなく計算されつくされていることがわかります。
読者がマンガを読む視点と作家が他の作家の作品を読む視点は異なります。
プロの視点でプロの作品を語るというのは素人の私にとってかなり刺激的でした。
3の法則
マンガには3の法則といわれるようなことがいくつかあるようです。
1)登場人物は3回出せ
2)3つに1つは派手なシーンにする
3)3回ひっくり返せ
短編では登場人物をそれほど多く出せません。読者の印象に残るには、登場人物一人一人を少なくとも3回出す必要があるようです。
3つに1つは派手なシーンを交えないと、読者を退屈させてしまいます。以前id:gamebook20060123にて
人間の忍耐は3分、根気は12分。どんなに引っ張っても、3分以内に何も起きないと、誰もがイライラし始めます。(略)一方、逆に、どんな素敵でおもしろいものでも、12分で飽きてしまいます。
という映画におけるテンポを紹介したことがありました。テンポの良さを定義することには意義があると思います。
3回ひっくり返すという対象は、起承転結全般が含まれます。
起承転結の転とは起承をひっくり返すことではありません。
承や結のパートの中にもひっくり返しは存在します。
もののついでといってはなんですが、起承転結も紹介します。
起承転結
山本さんの分類では次のようになります。
起 主要人物、場所、時代、状況などの説明、事件の発端
承 起こった事件が対立や葛藤により発展していく
転 事件が最高潮に達し、クライマックスを迎える
結 事件が収拾し、終わりとなる
感情移入
短編マンガにおける感情移入は共感や憐憫からくるものではないようです。
主人公が正しいかどうかではなく、いかに強い圧迫を受ける立場にあるかが大事
読者はプレッシャーを受ける立場の人に思わず思い入れしてしまう傾向があるようです。サスペンス描写にはこのような理由もあったのですね。
収録されている高橋留美子さんの短編はこのあたり上手く表現しています。段取りを追っていくとこうなります。
1)禁則事項、タブーを提示する
2)禁則事項を破ったものがどうなるか、ペナルティを提示する
3)摘発者(圧迫する者)が登場する
4)主人公は禁則事項に関してどちらの立場でもない
5)主人公は禁則事項を破ってしまい、追われる立場になる
ここで重要なのは4まで登場人物の感情の動きが全くないことです。主人公が禁止事項を破ったときに主人公の感情が動くことによって、読者はその感情にひきつけられるのです。
上記の1から5までの段取りはそのまま他にも応用が利きそうですね。
「泣き」が生まれるとき
1)ベクトルが下降から上昇に転じた瞬間
2)「受動(受け身)」から「能動(自発的)」へ変化したとき
に「泣き」が生まれる
かわいそうな描写が泣きを生むのではないようです。
登場人物がどん底から這い上がろうとしたときに「泣き」が生まれるようです。
クライマックス
(追記)
短編マンガはいかに少ないコマでわかりやすく説明するか腕の見せ所です。
しかし全てのコマがキツキツにまとめられているわけではありません。
クライマックスでは見開きシーンが用意されていたりします。
しかし読者は画だけだと読み飛ばしてしまうため、文字を左右に分けて書かれたりと独特の工夫があります。
普通のマンガでもクライマックスシーンを演出するために派手なシーンをもってきます。
しかしそうそう毎回毎回派手なシーンがあるわけではありません。
またテーマから地味なシーンをクライマックスに持ってくることもあります。
地味なシーンをクライマックスにもってくるには、映像のスローモーションのようにシーンを描きます。
クライマックスには、丁寧な描写が求められるのです。