乙一氏のプロット作成法

id:mkomiyaさんが紹介しています。
http://d.hatena.ne.jp/mkomiya/20040307#p1

さっそく乙一さんによる「プロットの作りかた」ですが、

 日記には「えらそうに書いてます」とありましたが、

 けっこう実践的ですよ。


  • 小説は文字がつらなってできる一本の線である(このへんはマルコフ連鎖の考え方と同じ)
  • 小説は、始まりと終わりを結ぶ一本の線である
  • 線はジェットコースターのように起伏をつけなければ読者が飽きてしまう

以上をまとめると、おもしろい小説を書くには、才能ではなく、技術、理論が必要である

(別のところで、いかに才能に頼らないで書くかが一番大切と書かれていた)



 詳しくは、

  • 小説は4つのパートに分かれている。

 それをAパート、Bパート、Cパート、Dパートと呼ぶ

  • 4つに別れるからには、境界が三つ存在する。それをa、b、cと呼ぶ(数学で言うと、変極点である←さすが理系(w)


 実際には、

  • 1章 A a
  • 2章 B b
  • 3章 C c
  • 4章 D


Aやaにはイベントが入る。

  • 1章

A「登場人物、世界観の紹介」

a「問題発生」

  • 2章

B「問題へ対処」

b「問題がさらに深刻化する」

  • 3章

C「問題に翻弄される登場人物たち」

c「問題解決へむけて決意する主人公」

  • 4章

D「問題解決へ行動」



その後は、エイリアンの映画を使って、ほとんどのハリウッド映画は上記の段階を踏んでいることを確認し、

乙一自身のGOTHの短編がその方法を実践していることをプロットを紹介して説明していた。

 このへんのことは岡田さんの「おたく学入門」にもほぼ同じことが書いてあります。

ストップウォッチを使って映画を見ようというところも同じです。おそらく別冊宝島のシナリオ入門がどちらも元ネタなんだと思います。

 (シナリオ入門は通販で買ったんで、月曜にはとどく予定。楽しみです)




 最後に乙一は長編は4つの短編がつらなってできていると考えていると説明していた。

 小説を作るうえで、やるべきことは、

  • 発端と終端を設定
  • 発端と終端の間を4つに分割し、境界の三つ(a,b,c)に設置するイベントを考える
  • 境界の前後のA,B,C,Dにa,b,cの変極点が不自然にならないようなイベントを考える


 ページが少ないので、かなり駆け足でしたが、情報量の多い、実戦的な内容でした。

 この日記は、ほぼ書き写したような内容ですが、マイナーな雑誌で読めない人も多いと思うので、参考になればと思いまとめました。

 近くの本屋にあったら手に入れたいな、と思っていたので、助かりました。

ファンタジーのデータベース

指輪物語」と「ハリー・ポッター」、この二作品はファンタジー物語の大ベストセラーである。
 この二作品の作者はイギリス人である。イギリス人はファンタジーが得意であるといっても過言ではないだろう。
 私はファンタジーのデータベースを充実させ、物語のテンプレートに当てはめれば、イギリス人の作品に負けないようなファンタジー作品が作れるのではないか、と思っている。この考えが正しいかどうかは別として、今は「魔法昔話の起源」という本からデータを取り出して、ファンタジーのデータベースを埋めていきたいと思っている。
 ちなみに以前書いた文章はこちら
http://d.hatena.ne.jp/gamebook/20040229

魔法昔話とは

 これからウラジーミル・プロップが魔法昔話について述べた文章を紹介する。

何らかの損害ないしは不利益(誘拐・追放等)を与えることから、または何かを手に入れたいという願望(王が息子に火の鳥をとりに行かせる)からはじまって、主人公が家を出、彼に呪的手段を与える贈与者、または求める物を見つけだすのを手伝ってくれる援助者との出会いをへて展開していく(略)。さらに敵との決闘(最も重要な形式は大蛇退治)、帰還、追跡と進む。この構成は入りくんでいることが多い。兄弟たちが、家に向かっている主人公を穴につきおとす。その後彼は再びもどり、難題による試練を受け、自分の国または舅の国で王位につき、結婚する。

 昔話のモチーフの多くは加入札(氏族体制における成人の儀式のようなもの)と、死後の世界への旅と帰還に起源を発している。実際は二つのグループが複雑に絡み合って魔法物語が成り立っている。なお加入札をモチーフとした昔話は、結婚へと流れていく。

タブーを破る

 不利益の多くはタブーを破ることから発生している。「家を出てはならない」というおきてを破ったこどもは、ヤガー(魔女)や大蛇、その他強力な力を持ったものにさらわれてしまう。

贈与者と援助者

 基本的に贈与者はただで助けてくれるわけではない。主人公は試練を受け、褒章に援助者を獲得する。援助者の力こそ、主人公の獲得した不思議な能力とみなされる。
 社会がまだ狩猟体制だったころ。ヤガーは森の守護者である。彼女は主人公を助ける森の動物を派遣する。この場合、贈与者はヤガー、援助者は森の動物である。
 農耕体制が確立すると、男が社会を支配するようになる。贈与者はヤガー(母系社会の象徴)に加えて、祖霊・死んだ父親(いずれも男系社会の象徴)が登場する。祖霊は豊穣をもたらす。死んだ父親は、供養されることによって主人公に援助者を派遣する。主人公を援助するのは、馬である。
 時には何の縁もない死者を葬ることによって、援助者を獲得することがある。
 娘が主人公の時は、母親が贈与者になる。主人公を援助するのは、人形である。
 食べられる(死すべき)運命であった動物を助けることによって、援助者を獲得することがある(助けた動物がその動物の主であるときもある)。この場合、贈与者=援助者である。社会体制の変化により、援助の根拠が支配関係から友情に変わっていった。
 馬以外の援助者も当然存在する。援助者は遠方・上方・深みに侵入する能力を持っている。鷲などの鳥(自然の主に由来する)や特別な力を持った名人(射手・早足・鍛冶屋・きき目・勘の鋭い者・舵手・泳ぎ手など)がそうである。

呪物

 動物の一部
 髪の毛(髪の毛と霊には強い結びつきがあるとされている)
 火打石(髪の毛を燃やす)
 棒(植物)
 遠い国(死者の国)からもたらされた、無尽蔵の富を授ける物
 生き水と死に水(蘇りの水と冥界の領域の権利を与える水)
 人形(故人の具現化)

渡り(遠くの国・死者の国への移動)

 動物の姿になる(狩猟体制に多い。鹿など)
 獣皮に身を包む(牧畜体制に多い。動物の体にもぐりこみ、何かに連れ去られる)
 鳥に乗る(海岸地方に多い)
 馬に乗る
 船に乗る(空を飛ぶ船)
 木に登る
 梯子または革紐をつたって(梯子は天に、革紐は地下の国に)
 道案内の助けをかりて(鳥の後をつけていく、など)

大蛇退治

 大蛇は水辺に住み、また地下に潜る存在である。空を飛ぶこともあり、火を吹くこともある。
 大蛇は略奪者である。娘や母親をさらっていく。また貢物を要求する。
 大蛇は橋を守っている。この橋は現世と黄泉の国をつなぐ橋であるとみなされている。
 大蛇は主人公を呑みこもうとする。
 主人公または援助者のみ、大蛇を殺すことができる。
 大蛇に呑みこまれることによって、主人公は能力(病の治癒・動物の言語の理解)を獲得したり、腹の奥で大切なもの(火など)を発見する。
 大蛇に呑みこまれた者は死んだとみなされ、吐き出されることによって生き返るとみなされた。
 大蛇は主人公を呑みこんだまま移動することがある(渡りを参照)

追跡と逃走

 大蛇を倒すと、大蛇の母あるいは義母・妻が登場し、主人公を呑みこもうと追っかけてくる。
 主人公は大蛇の口に熱した石を投げ入れたり、舌を攻撃することによって難を逃れる。
 主人公が黄泉の国から何かを盗んで帰還する際に、死者が追いかけてくることがある。
 主人公は山や森を作り出すが、乗り越えられてしまう。さらに主人公は川を作り出すと、死者は渡ることができない。川は現世と黄泉の国を隔てる境界である。
 追跡者と逃走者がお互いに変身しながら追いかけっこをすることがある。チベットを起源とする物語では、近くにいた動物に霊魂がのりうつるというパターンになる。

結婚

 主人公と王女が結婚するパターンは次のとおりである。主人公が大蛇から王女を救い出した場合、あるいは王女が課した難題や謎を主人公が解いた場合である。
 王女は貞淑な花嫁であり、花婿がいない間に求婚してくるものを拒む。しかし一方で、彼女は狡猾で復讐心にとみ、常に花婿を骨抜きにしようとたくらんでいる。
 主人公の兄弟が主人公を陥れ、その間に王女に求婚することがある(この兄弟はにせの主人公と呼ばれる)。

即位

 娘を通して王から婿へ王位が譲られるか、父親から息子に譲られる。
 前者の場合、主人公は王女と結婚し、舅の王国を相続する。
 時には王と主人公が競争をすることがある。その場合、王は敗れて死んでしまう。
 この場合、王女の立場は微妙である。配偶者となる主人公の手助けをする場合も、父親である王を手助けする場合もありうる。
 後に主人公の功績を横取りしようとする偽りの主人公が、物語に登場することがある(これは競争を挑む王のかたちが変化したものだと考えられている)。
 データはここまで。

魔法物語が生まれた背景

 社会制度の変遷によって、物語に変化が生じたという背景があることに気付かれた方もいるだろう。これについて書くかどうか迷ったのだが、今回は見送ることにした。
 主人公は「死の国」と深い関係があり、そこに「行って帰る」ことが魔法昔話に深くかかわっている。
 物語の中に、主人公の資格を授与・証明する場面が何回も登場する。これは加入札が消え去っても、その様子が物語に残されていることを示している。
「死の国」と加入札が、魔法昔話の中に交じり合って存在している。

その他コメント

「タブーを破る」ことによって物語が開始する、とはかなり便利なパターンである。動機と世界観を絡ませる、という表現すればよいだろうか。このあたりはさらに研究したほうがよさそうだ。
 これは私見だが、「家族」が魔法物語の人間関係の基礎となっているようだ。「友情」も含めていいだろう。しかし恋愛(ひとめぼれなど)は人間関係というより、登場人物の資格にあたるような気がする。
 また気がついたら何か書くつもりだ。